目次
- この記事の立ち位置
- 誰が責任を負うのか
- 関係する法令と、記事で問題になる点
- 二段構えの実装
- 段1:生成時にルールを渡す
- 段2:公開前に機械で止める
- 否定文脈をどう扱うか
- 724記事にかけた実績
- 機械で捕まらないもの
- 表現の置き換え表
- 記事以外への応用
- 運用に組み込む
- 導入の手順
- 検査が空振りしていないかを確かめる
- まとめ
この記事の立ち位置
生成AIで記事を作る運用が広がる一方、法令面のチェックをどう組み込むかを実装まで書いたものは少ない。「注意しましょう」で終わる解説は多いが、注意だけでは運用に乗らない。
編集部は2025年8月から、生成AIを使った記事の自動生成を運用している。公開記事は2026年9月20日時点で724本である。その過程で、法令面の検査を仕組みとして組み込んだ。本記事はその中身を公開する。
なお本記事は法令の解説ではなく、実装と運用の記録である。個別の表現が違法かどうかの判断は、所管の官庁が公開するガイドラインと、必要に応じて専門家の確認によるべきである。編集部は法律事務所ではなく、ここで書くのは「機械で止められる範囲をどう設計したか」に限られる。法的な判断が必要な領域と、仕組みで処理できる領域を分けて考えるための材料として読んでほしい。
誰が責任を負うのか
最初に押さえるべき点である。文章を生成した主体ではなく、公開した事業者が責任を負う。
景品表示法は、表示を行った事業者を規制の対象としている。誰が原稿を書いたか、どの道具を使ったかは、責任の所在を変えない。外部のライターに書かせた記事で問題が起きた場合に発注側が責任を負うのと同じ構造である。
したがって「AIが書いたので」は免責にならない。むしろ、生成の量が増えるほど、人が全部を読み切れなくなるぶん、仕組みで止める必要が高まる。手作業での確認は、月に数本なら回るが、週に数十本になると破綻する。破綻した時点で確認が形骸化し、実質的に無検査の状態になる。
AIが誤りを出す性質と組み合わさる
前提として、生成AIは事実と異なる内容をもっともらしく出力する。数値を実際と違う値で述べる、存在しない制度を説明する、といった形である。
これが法令面と組み合わさると、根拠のない効果や金額が断定的な文体で出力される、という形になる。文章として自然なぶん、読んだだけでは気づきにくい。
関係する法令と、記事で問題になる点
記事の内容によって関係する法令は変わる。編集部が運用で参照しているものを挙げる。
景品表示法
商品やサービスの表示について、実際より著しく優良または有利であると誤認させる表示を、消費者庁の景品表示法に基づく表示対策が禁じている。
記事で問題になりやすいのは、成果や収入を断定する表現である。「必ず」「確実に」「誰でも」といった語と、具体的な金額が組み合わさると、優良誤認や有利誤認のリスクが上がる。
打消し表示についても考慮が要る。消費者庁の表示に関するガイドラインでも扱われている論点で、本文で断定しておき、末尾に小さく注記を置く形は、実務上リスクが残る。
ステルスマーケティング規制
2023年10月から、事業者の広告であるにもかかわらず第三者の表示であるかのように見せる表示が、消費者庁のステルスマーケティング規制により景品表示法上の不当表示として指定されている。
記事メディアで問題になるのは、自社の関係者によるレビューを一般の利用者の声のように見せる形である。編集部では、自社関係者によるレビュー投稿を行わない方針を定めている。
薬機法
厚生労働省が所管する医薬品等(薬機法)は、医薬品、医療機器、化粧品などについて、承認されていない効能効果の表示を禁じている。健康食品や美容関連の記事を扱う場合に関係する。
一般的な記事でも、健康への効果に触れると範囲に入る場合がある。
医療広告ガイドライン
厚生労働省の医療広告規制では、医療機関の広告について、体験談や治療前後の写真の扱いなどに制限がある。医療関連の記事を扱う場合に確認が必要になる。
金融商品取引法
金融庁の所管領域であり、投資に関する助言を業として行う場合、登録が必要になる。記事の中で特定の銘柄や商品の売買を推奨する形は、助言に該当しうる。
著作権法
文化庁が所管する著作権法の領域で、生成AIの出力が既存の著作物に類似した場合の扱い、学習データの利用、引用の要件などが関係する。この点は文化審議会がまとめたAIと著作権に関する考え方も参照している。引用については、出典の明示と、引用部分が従であることが要件になる。
二段構えの実装
編集部の実装は2つの段に分かれている。
段1は、生成時にルールを渡す。 文章を作らせる段階で、守るべき規則をプロンプトに含める。
段2は、公開前に機械で止める。 生成された文章を検査し、問題のある表現があれば減点し、一定の水準を下回れば公開しない。
なぜ二段にするか
段1だけでは足りない。プロンプトで指示しても、出力が必ず従うとは限らない。長い文章を生成する過程で、指示から離れていく。
段2だけでも足りない。検査で落とすだけだと、同じ問題が毎回発生して差し戻しが増える。生成の段階で寄せておくほうが効率がよい。
両方を入れると、段1で大半が防がれ、段2ですり抜けたものが止まる。
段1:生成時にルールを渡す
編集部では、法令ごとのガイドを文書として持ち、生成時にプロンプトへ注入している。
持っているガイド
現在5本ある。ステマ規制、景品表示法、特定商取引法(消費者庁の特定商取引法ガイドを参照)、著作権法とAI、金融商品取引法である。合計で3万5千字ほどになる。
それぞれに、禁止される表現の型と、代わりに使える表現を書いている。「〜できます」ではなく「〜できる場合があります」のような、置き換えの具体例を含める。
全文は渡さない
3万5千字を毎回渡すと、入力の量が増えて費用が膨らむ。また、指示が長くなるほど守られにくくなる。
編集部の実装では、注入する分量に上限を設けている。記事の題材に応じて関係するガイドだけを選び、その中の要点を渡す形にしている。
渡し方で効き方が変わる
肯定形で「適切な表現を使ってください」と書くより、否定形で具体的に書くほうが効いた。「収入額を断定しない」「『誰でも』を使わない」のように、禁止する対象を名指しする。
抽象的な指示は、抽象的なまま無視されやすい。
段2:公開前に機械で止める
生成された文章に対して、正規表現による検査をかける。検出した項目ごとに減点し、品質の総合点に反映する。
検出している型
現在7種類ある。
- 断定的な収入保証(景品表示法上のリスク)
- 「誰でも簡単に」系の誇大表現
- 根拠のない収入額の断言
- 不労所得・放置で稼げるといった誤解を招く表現
- 投資助言に該当しうる表現(金融商品取引法上のリスク)
- 断定的な成功保証
- 虚偽の緊急性・限定性(有利誤認のリスク)
このうち1から5は単純な文字列の一致で判定し、6と7は後述する否定文脈の判定を伴う。
減点の設計
検出された項目ごとに点を引き、総合点から差し引く。一定の水準を下回った記事は公開されない。
二値で落とさず減点にしている理由は、境界事例があるためである。1件検出されたら即座に公開停止にすると、正当な文脈で語が使われた場合に運用が止まる。複数検出された場合や、重い型が検出された場合に水準を下回るよう設計している。
検査結果を書き戻す
検出した内容は、品質の採点結果に項目として残す。どの記事のどの表現が引っかかったかが後から追えるようにしている。
記録が無いと、検査を厳しくしたときに何が増えたかが分からない。逆に緩めたときに何が通るようになったかも追えない。条件を変えるたびに、前後で拾われる件数を比べられる状態にしておく。
否定文脈をどう扱うか
実装で最も手間がかかったのがこの部分である。
問題の形
禁止したい表現と同じ語が、それを否定する文脈で出てくることがある。「必ず成功します」は問題だが、「必ず成功するとは限りません」は問題ではない。むしろ後者は望ましい書き方である。
単純な文字列の一致で検査すると、後者も検出してしまう。注意喚起の記事ほど引っかかる、という逆転が起きる。
実装の方針
編集部の実装では、対象の型ごとに「この語が近くにあれば除外する」という否定語の一覧を持たせている。検査は行単位で行い、その行の中に否定語があれば検出から外す。
行単位にしたのは、文をまたいだ否定は判定が難しいためである。「必ず成功します。ただし条件があります。」のような書き方は、行単位では検出される。これは意図した挙動で、そういう書き方は前半だけが引用される可能性があるため、直してもらう。
検査の検査をする
否定文脈の処理を入れると、今度は検出されるべきものが検出されなくなる危険が出る。除外の条件が広すぎると、本来止めるべき表現が通る。
編集部では、検査を変更したときに次の2つを必ず確認している。
問題のある文例を用意して、検出されることを確かめる。 検出されなければ、除外条件が広すぎる。
正当な文例を用意して、検出されないことを確かめる。 検出されれば、除外条件が足りない。
この2方向の確認をしないと、検査が「何も検出しない」状態になっても気づけない。検査が正常終了して問題なしを返すため、エラーにならない。
724記事にかけた実績
現在の検査を、公開済みの全記事にかけ直した結果を示す。
結果
検査対象は724記事。減点が発生したのは1記事(0.1%)だった。検出された内容は、収入額の記載があるが打消し表示が無い、というものである。
この数字の読み方
0.1%という数字だけを見て「問題が無い」と結論するのは早い。3つの読み方がある。
1つ目は、段1が効いているという読み方である。生成時にルールを渡しているため、そもそも問題のある表現が出にくくなっている。これは期待どおりの結果である。
2つ目は、検査が緩いという読み方である。7種類しか見ていないため、それ以外の型は素通りする。検出が少ないことは、問題が少ないことを意味しない。
3つ目は、題材が偏っているという読み方である。編集部の記事はAI導入や技術解説が中心で、収入や効能を訴求する内容が少ない。同じ検査を健康食品や副業の記事に かけると、検出率は大きく変わるはずである。
遡及適用を運用に入れる
新しい検査項目を足したときは、必ず過去記事全体にかけ直している。足した検査が既存の記事で何を拾うかを見ないと、その検査が厳しすぎるのか妥当なのかが判断できない。
実例として、本記事の執筆と同じ日に、日本語以外の文字が混入していないかを検査する項目を追加した。追加後に724記事へかけ直し、既存記事では1件も検出されないこと、意図的に混入させた場合には検出されることの両方を確認している。
検査を足すときに起きること
検査項目は運用しながら増える。増やすときに注意すべき点を挙げる。
既存の記事で何が拾われるかを先に見る。 新しい検査を足して公開経路に入れると、次の公開から適用される。しかし既存記事に同じ問題が残っていれば、新しい記事だけが厳しくなる。編集部では、足すたびに全記事へかけ直している。
拾われる件数で条件を調整する。 724記事にかけて数百件が拾われるなら、条件が厳しすぎる可能性が高い。逆に0件なら、緩すぎるか、そもそも該当する題材を扱っていない。どちらなのかは、意図的に問題のある文例を作って確かめる。
検査の数を増やすほど、1件あたりの重みは下がる。 項目が20を超えると、どれが重要かが分からなくなる。編集部では現在7種類にとどめており、重い型に絞っている。
減点方式と停止方式の使い分け
すべての検査を減点にする必要はない。編集部では2つを使い分けている。
減点にするものは、境界事例がある型である。文脈によって適否が変わるため、1件で止めると運用が滞る。
即座に止めるものは、境界事例が無い型である。たとえば本文が壊れている、文が途中で切れている、設定項目が本文に流出している、といった形式的な欠陥は、正当な理由が存在しない。これらは検出したら公開しない。
区別の基準は「正当な文脈があり得るか」である。あり得るなら減点、あり得ないなら停止にする。
機械で捕まらないもの
正規表現による検査で捕まるのは、明らかな表現だけである。捕まらないものを把握しておく必要がある。
事実関係の誤り
「この制度は2026年4月から始まります」という記述が正しいかどうかは、正規表現では判定できない。数値や日付の誤りは、出典と突き合わせないと分からない。
編集部では、出典のURLが実際に応答を返すか、その本文に該当する語が含まれるかを機械で確かめる処理を、別に持っている。都道府県ごとの制度を調べた際は、この方式で9件の誤りを事前に弾いた。
文脈依存の判断
同じ表現でも、対象となる商品や読者によって適否が変わる場合がある。健康食品の記事における効能の記述と、一般的な健康情報の記述では、基準が異なる。
この種の判断は機械では扱えない。題材ごとに人が確認する範囲を決めておく。
全体としての印象
個々の表現に問題が無くても、記事全体として過度に効果を期待させる構成になっている場合がある。見出しの並べ方、事例の選び方、数値の見せ方といった、文字列では表せない要素が関係する。
引用の要件
引用の要件を満たしているかは、出典の明示だけでは判定できない。引用部分が従であること、必要な範囲にとどまることといった要件は、分量と構成を見ないと分からない。
表現の置き換え表
検査で止めるだけでなく、代わりの書き方を示すと差し戻しが減る。編集部が実際に使っている置き換えの型を挙げる。
成果・効果に関するもの
| 避ける書き方 | 置き換え |
|---|---|
| 必ず成果が出ます | 成果が出た事例があります(条件と出典を併記) |
| 誰でも簡単にできます | 手順は次のとおりです(前提条件を明示) |
| 月◯万円稼げます | 事例では月◯万円でした(対象・期間・条件を併記) |
| 効果があります | 調査では◯%が改善したと報告されています(出典) |
共通するのは、断定を観測に置き換えることである。「こうなる」ではなく「こうだった」と書く。観測には必ず条件が付くため、条件を書く動機が生まれる。
比較に関するもの
| 避ける書き方 | 置き換え |
|---|---|
| 業界最安 | 当社調べでは◯社中最も低い価格です(調査日・対象を明示) |
| No.1 | ◯◯調査(2026年◯月)で1位でした |
| 他社より優れています | ◯◯の項目では当社が上回ります(比較軸を限定) |
比較の表示は、根拠となる調査の出典、時点、対象範囲がセットで必要になる。消費者庁の公正競争規約のように、業界ごとに比較表示の基準が定められている領域もある。出せないなら比較そのものを書かない。書かない判断も、立派な対応である。
緊急性に関するもの
| 避ける書き方 | 置き換え |
|---|---|
| 今だけ | ◯月◯日までのご提供です(実際の期限) |
| 残りわずか | 在庫数を表示する、または書かない |
| 期間限定(期限の記載なし) | 期限を明記するか、削除する |
期限や数量を書くなら実際の値を書く。書けないなら、緊急性を煽る表現自体を使わない。
置き換え表を検査と連動させる
編集部では、検査で検出した型ごとに、対応する置き換えの例を結果に添えている。検出して終わりにせず、次に何をすればよいかを同時に示す。
差し戻しの手間は、書き直す側の作業量で決まる。何が悪いかだけを伝えると、書き直しの方向を探すところから始まる。
記事以外への応用
同じ仕組みは、記事以外の対外的な出力にも使える。
機械向けの配信面
検索エンジンや生成AIが読む面にも、同じ検査をかける価値がある。
編集部には、人が読む画面には書いていない表現が、機械向けの面に残っていた例がある。生成AIがその文言を逐語で引用し、事実と異なる説明として流通していた。法令上の線引きから避けてきた表現だった。
人が見る面だけを点検していると、機械が読む面が網から漏れる。 検査の対象に、構造化データ、機械向けの要約ファイル、APIの応答文言を含める。
問い合わせへの自動応答
自動で応答を返す仕組みを入れる場合、その応答文にも同じ検査が要る。人が書いた定型文であれば事前に確認できるが、生成で作る場合は都度の検査が必要になる。
社外に出す資料
提案資料や報告書に生成AIを使う場合も同じである。編集部では、対外的に届くものは人の確認を必須の工程にしている。
やらないことを書く
検査は「書いてはいけないこと」を止める仕組みだが、「やらないことを明示する」のは別の手当てとして効く。
生成AIは、書かれていない部分を一般論で補完する。提供する範囲だけを書いて、提供しない範囲を書かないでおくと、業界の一般的な形で埋められる。編集部では、サービスの説明に「お引き受けしないこと」を明記する形にした。
運用に組み込む
検査を作っただけでは機能しない。走る場所に埋める必要がある。
公開の経路に埋める
編集部では、公開の手順の中に検査を組み込んでいる。検査を通らなければ公開されない。
手で実行する運用にしないのが要点である。手作業にすると、忙しい時期に飛ばされる。そして飛ばされたことに誰も気づかない。
編集部の別の例では、必要な検査が実装されていたにもかかわらず実行されておらず、問題が数週間放置されていたことがある。検査は存在していた。走っていなかっただけである。
落ちたときに何をするかを決める
検査で止まったときの扱いを決めておく。書き直すのか、例外として通すのか、誰が判断するのか。
決めていないと、止まった記事が滞留する。あるいは、面倒になって検査自体が外される。外された検査は、外したこと自体が忘れられる。
例外を記録する
正当な理由で例外として通す場合、理由を記録する。同じ例外が繰り返されるなら、検査の条件を見直す材料になる。
定期的に見直す
法令やガイドラインは改定される。ステマ規制のように、新しく指定される類型もある。
編集部では、参照しているガイドの更新を定期的に確認する運用にしている。ガイド自体が古いまま注入され続けると、検査が形骸化する。
導入の手順
これから組み込む場合の順序を挙げる。
1. 扱う題材から関係する法令を洗い出す
すべての法令に対応する必要はない。自社が扱う題材で関係するものに絞る。金融の記事を書かないなら金融商品取引法の検査は要らない。
2. 禁止する表現を具体的に列挙する
抽象的な方針ではなく、文字列として列挙する。「誇大表現を避ける」ではなく「『誰でも』『必ず』『確実に』を成果と組み合わせて使わない」のように書く。
3. 正当な文例と問題のある文例を用意する
検査を作る前に、両方の文例を用意する。これが検査の正しさを確かめる材料になる。
4. 検査を実装し、両方の文例で確かめる
問題のある文例が検出され、正当な文例が検出されないことを確認する。片方だけでは足りない。
5. 過去記事にかけ直す
既存の記事で何が拾われるかを見る。大量に拾われるなら条件が厳しすぎる可能性があり、1件も拾われないなら緩すぎる可能性がある。
6. 公開の経路に埋める
手で実行する運用にしない。検査を通らなければ公開されない形にする。
何日で作れるか
編集部の実装は、最初の版を1日で作った。正規表現による検査7種類と、減点の集計、結果の記録である。その後、否定文脈の処理を足すのに追加でもう1日かかった。
ガイド文書の整備には別の時間がかかる。法令ごとに、禁止される表現と置き換えの例を書き出す作業である。5本で3万5千字になったが、これは一度に作ったものではなく、運用しながら足していった結果である。
最初から完全を目指す必要はない。最も起きやすい1種類から始めて、公開経路に埋めるところまで到達するほうが、網羅的な設計を机上で作るより早く効く。
手で実行する運用にしない。検査を通らなければ公開されない形にする。
検査が空振りしていないかを確かめる
検査を書いたあとに、必ず通すべき手順がある。壊れた実物を入れて、検査が実際に止めるかを見る。
絵文字しか見ていなかった検査
編集部では、記事の衛生検査に「日本語・ラテン文字以外の文字が混入していないか」を見る規則を足した。きっかけは、公開した記事の中に外国語の単語が1語だけ紛れていたのを後から見つけたことである。その時点の検査は絵文字しか見ておらず、問題なく通過していた。
規則を足したあと、そのまま「対応済み」とはしなかった。問題のある文字列を含む文例を作って検査が止めることを確認し、正常な文例で止まらないことも確認した。
両方を確かめる必要がある。片方だけだと、何も検出しない検査か、すべてを検出する検査になっていても気づけない。
対象0件のまま「問題なし」で通過していた検査
同じ日に、別の検査が空振りしていた例も見つかった。検査対象のディレクトリの指定を誤っており、対象0件のまま「0群・0ページ・問題なし」で正常終了していた。
合格の表示は、欠陥が無いことを意味するとは限らない。検査が対象に届いていないときも、同じ顔で合格する。
対策は単純である。対象が0件なら失敗として扱う。 検査対象の件数を必ず出力させ、想定と合っているかを確認する。
法令の検査では影響が大きい
この形の失敗は、法令の検査で起きると影響が大きい。
「724記事すべてを検査し、減点が残るのは1記事」という報告は、検査が724記事すべてに届いていて初めて意味を持つ。対象の指定を誤って10記事しか見ていなければ、同じ報告が出る。
報告を受け取る側も、件数を聞くだけでなく、分母がいくつで、どう数えたかを確かめてほしい。
まとめ
生成AIで記事を作る場合でも、責任を負うのは公開する事業者である。「AIが書いた」は免責にならない。
編集部の実装は二段構えである。生成時にルールをプロンプトへ渡し、公開前に機械で検査して減点する。段1だけでは指示から外れ、段2だけでは差し戻しが増える。
実装で最も手間がかかったのは、否定文脈の扱いだった。「必ず成功します」は止めたいが「必ず成功するとは限りません」は通したい。行単位で否定語を見る方式にしたが、この処理を入れると今度は検出漏れの危険が出る。問題のある文例と正当な文例の両方で確かめる必要がある。
724記事にかけた結果、減点が残っているのは1記事だった。ただしこの数字は「問題が無い」ことを意味しない。7種類しか見ていないこと、題材が偏っていることを併せて読む必要がある。
そして、検査は走る場所に埋める。編集部には、必要な検査が実装されていたのに実行されておらず、問題が放置されていた例がある。存在する検査と走っている検査は別の量である。
明日から試せる3つ
1つ目は、自社が扱う題材で関係する法令を1つだけ選ぶことである。すべてに対応しようとすると着手できない。
2つ目は、禁止したい表現を10個、文字列として書き出すことである。方針ではなく具体的な語で書く。これだけで検査の半分はできている。
3つ目は、問題のある文例と正当な文例を1つずつ作ることである。検査を書いたあと、両方で確かめる。片方だけだと、何も検出しない検査や、すべてを検出する検査になっていても気づけない。
編集部では、AI導入の相談や、生成の運用に検査を組み込む支援も行っている。生成を自動化したが品質の担保ができていない、という段階の相談については、サービス案内を参照してほしい。
参考にした一次資料
- e-Gov 法令検索 — 景品表示法・薬機法・金融商品取引法など、本記事で触れた法令の条文を確認できる検索サービス
- 公正取引委員会 — 景品表示法の運用に関わる公正取引の所管機関
- 個人情報保護委員会 個人情報保護法 — 記事制作・運用で個人情報を扱う場合に確認すべき所管
- 経済産業省・総務省 AI事業者ガイドライン — 生成AIを事業活動で利用する際の指針
よくある質問
AIが書いた記事に法令上の責任は発生しますか。
生成した主体ではなく、公開した事業者が責任を負うのが原則です。景品表示法は表示を行った事業者を対象としており、誰が文章を書いたかは免責の理由になりません。生成AIを使っているという事実は、表示の適正さを担保しません。公開前に事業者側で確認する工程が必要です。
チェックは人がやるべきですか、機械で足りますか。
機械で捕まるのは明らかな表現だけです。編集部の実装では、断定的な収入保証、誇大表現、根拠のない金額の断言など7種類を検出していますが、文脈依存の判断は機械では捕まりません。機械は明らかなものを落とす門として使い、境界事例は人が見る、という二段構えにしています。
どんな表現が引っかかりますか。
編集部の実装では、収入や成果を断定する表現、「誰でも簡単に」のような誇大表現、根拠のない金額の断言、不労所得を示唆する表現、投資助言に該当しうる表現、虚偽の緊急性や限定性を検出しています。ただし「〜とは限りません」のような否定文脈の中に同じ語が出る場合は除外する処理を入れています。
既存の記事にも遡って適用できますか。
できます。編集部では公開済みの724記事すべてに現在の検査をかけ直し、減点が残っているのは1記事(0.1%)であることを確認しました。過去記事への遡及適用は、新しい検査項目を足したときに必ず行う運用にしています。足した検査が既存の記事で何を拾うかを見ないと、その検査が厳しすぎるのか妥当なのかが判断できません。