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「AlphaFold 4」はDeepMind公式に無い:AlphaFold 3とIsoDDEの事実整理

「DeepMindがAlphaFold 4を発表、精度90%超え」という話は一次資料で確認できない。公式に確認できるAlphaFold 2・3の実績と、「AlphaFold 4級」と評されたIsomorphic Labsの創薬AI「IsoDDE」の中身を整理する。

編集部注: 本記事の初版(2026年1月25日公開)には「DeepMindがAlphaFold 4を発表し、精度90%超えを達成した」という一次資料で確認できない記述が含まれていた。2026年8月21日に是正し、2026年9月12日にDeepMind・Isomorphic Labsの公式資料と報道で全主張を再確認して全面改訂した。以下は改訂後の内容である。

結論から述べる。「AlphaFold 4」はGoogle DeepMindが公式に発表した製品名ではない。編集部が2026年9月12日にDeepMind公式のAlphaFoldページを確認した範囲で、掲載されているのはAlphaFold、AlphaFold 2、AlphaFold 3、AlphaFold Server、AlphaFold Protein Structure Databaseであり、「AlphaFold 4」の記載は無い(出典: Google DeepMind「AlphaFold」 https://deepmind.google/science/alphafold/ )。「精度90%超え」という数値も、DeepMindの公式発表では確認できない。この呼称と数字を前提に投資判断や研究計画を組むのは避けるべきだ。

では「AlphaFold 4」という言葉はどこから来たのか。2026年2月19日のNature誌ニュース記事は、DeepMindの創薬スピンオフIsomorphic Labsが発表したAIモデル「IsoDDE」を取り上げ、見出しに「An AlphaFold 4」を掲げた。記事中でコロンビア大学の計算生物学者Mohammed AlQuraishi氏が「AlphaFold 4に相当する規模の大きな進歩」と評しており、この表現が広まった(出典: Nature「’An AlphaFold 4’ — scientists marvel at DeepMind drug spin-off’s exclusive new AI」2026年2月19日 https://www.nature.com/articles/d41586-026-00365-7 、同記事のScientific American転載 https://www.scientificamerican.com/article/an-alphafold-4-scientists-marvel-at-deepmind-drug-spin-offs-exclusive-new-ai/ )。つまり「AlphaFold 4」は外部研究者の比喩であって、製品名でも公式のバージョン番号でもない。

AlphaFold 2がもたらした転換点

DeepMindは2020年11月30日、タンパク質構造予測のコンペティションCASP14(Critical Assessment of Protein Structure Prediction)の結果を公表し、AlphaFold 2が全ターゲットの中央値でGDT 92.4を記録したと発表した。CASPの共同創設者John Moult教授によれば、GDTがおよそ90に達すると実験手法で得られる結果と非公式に同等とみなされる。半世紀にわたる「タンパク質フォールディング問題」が計算で解けるようになったと受け止められたのはこのときである(出典: Google DeepMind「AlphaFold: a solution to a 50-year-old grand challenge in biology」2020年11月30日 https://deepmind.google/blog/alphafold-a-solution-to-a-50-year-old-grand-challenge-in-biology/ )。

DeepMindの公式資料で「90」前後の数字が出てくるのはこのCASP14のGDTであり、2020年時点のタンパク質単体の構造予測に対する指標である(出典: 前掲のDeepMind公式ブログ、2020年11月30日)。次世代モデルの改善率として「90%」が示されたものではない点に注意したい。

DeepMindはその後、AlphaFold 2の予測構造をEMBL-EBI(欧州分子生物学研究所・欧州バイオインフォマティクス研究所)と共同で「AlphaFold Protein Structure Database」として公開した。公式ページによれば、2021年7月22日にヒトのプロテオーム全体の予測構造とともにデータベースを立ち上げ、2022年7月28日には科学界に登録されたほぼ全てのタンパク質へ拡張し、収録構造は2億件を超えた(出典: 前掲 https://deepmind.google/science/alphafold/ )。世界中の研究者が予測構造に自由にアクセスできるようになったことが、その後の研究加速の土台になっている。

公式に確認できる「次世代AlphaFold」=AlphaFold 3

DeepMindは2023年10月31日のブログ「A glimpse of the next generation of AlphaFold」で、タンパク質に加えてリガンド(低分子)、核酸(DNA・RNA)、翻訳後修飾を含む分子の構造予測へ対象を広げた次世代モデルを予告した。このブログでは「大幅に精度が向上した」「しばしば原子レベルの精度に達する」と説明されているが、改善率としての「90%」という数字は示されていない(出典: Google DeepMind、2023年10月31日 https://deepmind.google/blog/a-glimpse-of-the-next-generation-of-alphafold/ )。

その正式版がAlphaFold 3である。2024年5月8日にGoogle DeepMindとIsomorphic Labsが共同で発表し、タンパク質、DNA、RNA、リガンド、およびそれらの化学修飾を含む分子の構造と相互作用を予測する。構造の生成には画像生成AIと同種の拡散(diffusion)ネットワークを用い、原子の雲から出発して多段階で最終構造に収束させる。発表によれば、分子間相互作用の予測では既存手法に対して少なくとも50%の改善、一部の重要な相互作用カテゴリでは精度が2倍になったとしている。研究者向けには「AlphaFold Server」を通じて非商用研究に限り無償で利用できる(出典: Google公式ブログ「AlphaFold 3 predicts the structure and interactions of all of life’s molecules」2024年5月8日 https://blog.google/technology/ai/google-deepmind-isomorphic-alphafold-3-ai-model/ )。

「AlphaFold 4級」と評されたIsoDDEの中身

Isomorphic Labsは、DeepMind共同創業者のDemis Hassabis氏が2021年にAlphabet傘下で立ち上げた創薬企業である(出典: TechCrunch、2024年1月7日 https://techcrunch.com/2024/01/07/isomorphic-inks-deals-with-eli-lilly-and-novartis-for-drug-discovery/ )。同社は2026年2月10日、創薬向けの統合モデル「Isomorphic Labs Drug Design Engine(IsoDDE)」を公表した。同社の説明では、学習データと似ていないタンパク質・リガンドの構造予測ベンチマークでAlphaFold 3の2倍超の精度を示し、抗体・抗原の予測ではAlphaFold 3の2.3倍、オープンソースモデルのBoltz-2の19.8倍(いずれも高精度領域での比較)、低分子の結合親和性の予測では公開ベンチマーク3件で既存の深層学習手法を上回り、物理ベースのFEP(自由エネルギー摂動法)を上回る場合もあるとしている(出典: Isomorphic Labs「The Isomorphic Labs Drug Design Engine unlocks a new frontier beyond AlphaFold」2026年2月10日 https://www.isomorphiclabs.com/articles/the-isomorphic-labs-drug-design-engine-unlocks-a-new-frontier 。比較対象のBoltz-2はMITライセンスで公開されている https://github.com/jwohlwend/boltz )。

ここで押さえておくべき点が2つある。第一に、これらの数値はIsomorphic Labs自身の技術報告に基づく主張であり、IsoDDEは非公開(プロプライエタリ)で、前掲のNature記事も技術報告からは同等の結果を再現する手掛かりがほとんど得られないと指摘している。第二に、IsoDDEはIsomorphic Labsのモデルであって、DeepMindが「AlphaFold」シリーズの新バージョンとして位置付けたものではない。「AlphaFold 4」という呼称はこの2点を覆い隠すため、実務では「Isomorphic LabsのIsoDDE」と正確に呼ぶ方がよい。

ビジネス面で確認できる事実

Isomorphic Labsは2024年1月、Eli LillyおよびNovartisとの戦略研究提携を発表した。報道によれば、Eli Lillyからは契約一時金4,500万ドルに加え、進捗に応じて最大17億ドルのマイルストーン(ロイヤルティ別)を受け取る条件で、Novartisからは契約一時金3,750万ドルと最大12億ドルの成果連動報酬を受け取る条件であり、2件合計で約30億ドル規模とされる(出典: TechCrunch「Isomorphic inks deals with Eli Lilly and Novartis for drug discovery」2024年1月7日 https://techcrunch.com/2024/01/07/isomorphic-inks-deals-with-eli-lilly-and-novartis-for-drug-discovery/ )。Isomorphic Labs公式の提携ページは、Novartisとの提携が2024年1月に始まり、2025年2月に最大3件の研究プログラムを追加する形で拡大したと説明しているが、金額は公表していない(出典: https://www.isomorphiclabs.com/partnerships )。

資金面では、同社は2026年5月12日にThrive Capitalを引受主幹事とする21億ドルのシリーズB調達を発表した。Alphabet、GV、MGX、Temasek、CapitalG、UK Sovereign AI Fundが参加し、資金はIsoDDE(AI創薬エンジン)の開発と展開、事業の世界展開、臨床に向けた治療プログラムの拡充に充てるとしている(出典: Isomorphic Labs「Isomorphic Labs announces Series B investment round」2026年5月12日 https://www.isomorphiclabs.com/articles/isomorphic-labs-announces-series-b-investment-round )。

投資家にとっては、これらはAI創薬分野への継続的な資金流入を示す材料になる。ただし、AIはあくまで候補化合物の探索・予測を加速するツールであり、薬が患者に届くまでには臨床試験という長いプロセスが残る。投資判断にあたっては、技術的な性能の主張だけでなく、契約条件や臨床開発の進捗、規制当局との関係まで多角的に見る必要がある。

技術者が今、着目すべき点

技術者にとって重要なのは、出典不明のまま広まった呼称や改善率ではなく、公式に確認できる方向性だ。AlphaFold 3で示された、タンパク質に加えてリガンド・核酸・化学修飾を一体で扱う設計と、拡散モデルによる構造生成は公式資料で確認できる技術トレンドである。IsoDDEが強調する「学習データと似ていない分子への汎化」と「結合親和性の予測」は、構造予測の次に来る創薬上の課題を示している。

AlphaFold 3はAlphaFold Serverで非商用研究向けに試せるが、IsoDDEは非公開である。自社で試せるものと、発表側の主張を読むしかないものを分けて扱い、後者については技術報告のベンチマーク条件(どのデータセットで、どの領域の比較か)まで読んでから判断する姿勢が求められる。

精度の数字より、何を検証すべきか

「精度90%超え」のような数字が一人歩きする一方で、その数字が何を測定した結果なのか、どの分子クラスに対する精度なのかが分からなければ、実務上の意味は薄い。実際、DeepMindの公式資料にある「90前後」はCASP14のGDTであり、AlphaFold 3の「50%改善」は分子間相互作用の既存手法比、IsoDDEの「2倍超」はIsomorphic Labsが設定した汎化ベンチマークでのAlphaFold 3比である(出典: いずれも前掲の各社公式発表)。それぞれ測っているものが異なり、単純には比べられない。

結局のところ、この技術が医療を変えるかどうかは、精度の数字そのものよりも、実験による検証や臨床試験を通じてどれだけの成果が積み上がるかにかかっている。編集部は今後も、公式に確認できる一次情報をもとにAlphaFoldおよび関連技術の動向を追跡していく。

出典・参考

  • Google DeepMind「AlphaFold」(製品一覧・沿革) https://deepmind.google/science/alphafold/ (2026年9月12日確認)
  • Google DeepMind「AlphaFold: a solution to a 50-year-old grand challenge in biology」2020年11月30日 https://deepmind.google/blog/alphafold-a-solution-to-a-50-year-old-grand-challenge-in-biology/
  • Google DeepMind「A glimpse of the next generation of AlphaFold」2023年10月31日 https://deepmind.google/blog/a-glimpse-of-the-next-generation-of-alphafold/
  • Google「AlphaFold 3 predicts the structure and interactions of all of life’s molecules」2024年5月8日 https://blog.google/technology/ai/google-deepmind-isomorphic-alphafold-3-ai-model/
  • Isomorphic Labs「The Isomorphic Labs Drug Design Engine unlocks a new frontier beyond AlphaFold」2026年2月10日 https://www.isomorphiclabs.com/articles/the-isomorphic-labs-drug-design-engine-unlocks-a-new-frontier
  • Nature「’An AlphaFold 4’ — scientists marvel at DeepMind drug spin-off’s exclusive new AI」2026年2月19日 https://www.nature.com/articles/d41586-026-00365-7
  • TechCrunch「Isomorphic inks deals with Eli Lilly and Novartis for drug discovery」2024年1月7日 https://techcrunch.com/2024/01/07/isomorphic-inks-deals-with-eli-lilly-and-novartis-for-drug-discovery/
  • Isomorphic Labs「Partnerships」 https://www.isomorphiclabs.com/partnerships
  • Isomorphic Labs「Isomorphic Labs announces Series B investment round」2026年5月12日 https://www.isomorphiclabs.com/articles/isomorphic-labs-announces-series-b-investment-round
  • Boltz(GitHub, MIT License) https://github.com/jwohlwend/boltz

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よくある質問

DeepMindは「AlphaFold 4」を発表しましたか?

編集部が2026年9月12日にDeepMind公式のAlphaFoldページを確認した範囲では、掲載されているのはAlphaFold、AlphaFold 2、AlphaFold 3、AlphaFold Server、AlphaFold Protein Structure Databaseで、「AlphaFold 4」という製品名はありません。「AlphaFold 4」という表現は、2026年2月にIsomorphic Labsが発表した創薬AI「IsoDDE」について、Nature誌のニュース記事で外部の研究者が「AlphaFold 4に相当する規模の進歩」と評したものが広まった呼称です。

「精度90%超え」という数字の根拠はありますか?

DeepMindの公式発表で次世代モデルの精度として「90%」という数字は確認できません。公式資料で90前後の数字が出てくるのは、2020年のCASP14でAlphaFold 2が記録した全ターゲット中央値GDT 92.4です。これは2020年時点のタンパク質単体の構造予測の指標で、新モデルの精度ではありません。

IsoDDEはAlphaFold 3と何が違いますか?

IsoDDEはGoogle DeepMindのスピンオフであるIsomorphic Labsが2026年2月10日に発表した創薬向けのモデルで、同社の説明ではタンパク質・低分子の構造予測の難しいベンチマークでAlphaFold 3の2倍超の精度、抗体・抗原の予測でAlphaFold 3の2.3倍、結合親和性の予測で物理ベースの手法(FEP)を上回る場合があるとしています。AlphaFold 3は非商用研究向けにAlphaFold Serverで無償提供されていますが、IsoDDEは非公開(プロプライエタリ)で、外部が同じ条件で検証できる状態にはありません。