目次
結論
不動産の実務では「公示地価は実勢価格の8割程度」という言い方が広く流通している。この通説どおりなら、取引価格は公示地価の約1.25倍(=1÷0.8)になるはずである。実際に突合したところ、結果は逆を向いていた。
不動産DD支援サービス「訳あり物件どうする?(wakeari.ai-media.co.jp)」が保持するデータベース(Cloudflare D1 real-estate-dd)には、国土交通省が公開する公示地価・都道府県地価調査(合計46,989点、2025年時点・全47都道府県)と、同省 不動産情報ライブラリの取引事例が格納されている。取引事例は 種類=宅地(土地) かつ 地域=住宅地 に限定して集計しており(理由は次節「訂正履歴」参照)、対象205市区町村・28都道府県・59,234件(元取引件数合計)のうち、大字別に一定件数以上まとまった市区町村だけを公示地価と突合した結果、185市区町村が対象になった(元となる取引件数合計44,274件、取引時期2022年Q1〜2024年Q4)。両者を市区町村単位で突合し、公示地価に対する取引事例の価格比を185市区町村で算出したところ、中央値約0.90(取引事例が公示地価の約10%下)、第1四分位0.77、第3四分位1.05、最小0.42〜最大1.56という分布になった。つまり通説が言う1.25倍どころか、取引事例は公示地価をむしろ下回っていた。比率が1.0を下回る(取引事例が公示地価より低い)市区町村が過半数を占める一方、市区町村単位でのばらつきが大きく、全国一律に「公示地価の実勢は何%」と言い切ることはできない。(出典: 国土交通省「国土数値情報 地価公示・都道府県地価調査」「不動産情報ライブラリ 取引価格情報」をALLFORCESが加工・集計、2026年8月時点)
訂正履歴
初版(2026-08-13公開)は、取引事例データの集計方法に不備があり、数値を訂正した(2026-08-14)。
- 何が起きていたか: 初版の集計は、不動産情報ライブラリの取引事例CSVに含まれる
種類列(宅地(土地)/宅地(土地と建物)/中古マンション等/農地/林地が混在)と地域列(住宅地/商業地/工業地)でフィルタせずに市区町村単位で集計していた。この結果、中古マンションの専有単価や商業地の取引が「住宅地の公示地価」と比較され、比率が実態より高く歪んでいた(例: 初版で比率1.92だった千葉市美浜区は、取引の79%が宅地(土地と建物)=マンション・建売等だった。初版で比率2.26だった大阪市中央区は、宅地(土地)の取引でもその6割が地域区分「商業地」だった)。 - 何を直したか: 集計スクリプトに
種類=宅地(土地)かつ地域=住宅地の二重フィルタを追加し、Cloudflare D1reinfolib_aggregateテーブルを実データで再集計・差し替えた(現行データ11,520行・59,234件)。本記事の数値はすべてこの是正後のデータに基づく。 - 数値の変化: 中央値は 1.13 → 約0.90 に変わり、「取引事例が公示地価を平均+13%上回る」という初版の結論から、「取引事例は公示地価を平均▲10%程度下回る」という逆方向の結論になった。突合対象の市区町村数も205→185に減った(大字単位で条件を満たすサンプルが少ない市区町村は対象から除外したため)。初版で例示していた千葉市美浜区(1.92)・大阪市中央区(2.26)は、住宅地の宅地(土地)取引に限るとサンプルが著しく少なく、いずれも今回の突合対象から外れている。
- 訂正の対象範囲: 本記事の数値(分布表・個別市区町村の比率例)のみの訂正であり、公示地価側のデータ(46,989点)に変更はない。
出典: 国土交通省「不動産情報ライブラリ 取引価格情報」の取引事例CSVをALLFORCESが再集計、2026年8月14日
前提と限界
本レポートは行政公開データ(国土交通省)の集計値のみを扱い、個別物件・個人の情報は一切含めていない。訳あり物件の顧客データ(個別のDD依頼データ)は本集計に使用していない。
公示地価と取引事例の「乖離」は市区町村単位の統計的な傾向であり、個別物件の適正価格を示すものではない。宅地建物取引業法・不動産の鑑定評価に関する法律上、本レポートの数値をもって特定物件の取引価格を判断・保証することはできない。最終的な価格判断は宅地建物取引士・不動産鑑定士に相談する必要がある。
比率の算出方法(後述)は近似であり、厳密な統計的信頼区間の計算ではない。また基準時点が異なる点にも注意が必要である。公示地価は2025年1月1日時点、地価調査は2025年7月1日時点の値であるのに対し、取引事例は2022年Q1〜2024年Q4に成立した取引の集計であり、時点そのものが数年ずれている。
データと方法
データソース
| データ | 出典 | 利用条件 | 基準日/期間 | 件数 |
|---|---|---|---|---|
| 公示地価(地価公示) | 国土交通省 国土数値情報 地価公示(L01) | 公共データ利用規約(PDL1.0) | 2025年1月1日時点 | 25,563点 |
| 都道府県地価調査 | 国土交通省 国土数値情報 都道府県地価調査(L02) | 公共データ利用規約(PDL1.0) | 2025年7月1日時点 | 21,426点 |
| 取引事例(集計、種類=宅地(土地)・地域=住宅地) | 国土交通省 不動産情報ライブラリ 取引価格情報 | 公共データ利用規約(PDL1.0)、二次利用・商用利用可 | 取引時期2022年Q1〜2024年Q4 | 11,520行(集計行)/59,234件(元取引件数合計)、205市区町村 |
集計基準日は2026-08-14(訂正版)。公示地価・都道府県地価調査はいずれも国土交通省 国土数値情報のダウンロードデータに基づき、加工者(ALLFORCES)による市区町村単位の集計であることをここに明記する。
乖離比率の算出方法
- 取引事例データを
種類=宅地(土地)かつ地域=住宅地に限定して集計(訂正履歴を参照)。 - 公示地価データから、用途区分「住宅地」の地点を市区町村コード単位で単純平均(円/m²)。
- 取引事例データから、市区町村コード単位で大字別中央値(大字あたり件数5件以上のみ採用、少数サンプルのノイズを除くため)を件数加重平均。
- 両方のデータが存在し、公示地価3点以上・取引事例(手順3の条件を満たした大字の合計)20件以上のある市区町村(185件)について、比率=取引事例加重平均÷公示地価単純平均を算出。
- 185市区町村分の比率の分布(最小・Q1・中央値・Q3・最大・平均・標準偏差)を集計。
出典: 国土交通省「国土数値情報 地価公示・都道府県地価調査」「不動産情報ライブラリ 取引価格情報」をALLFORCESが加工・集計
分布表
都道府県別 公示地価点数(上位10)
| 都道府県 | 公示地価点数(L01+L02合計) |
|---|---|
| 東京都 | 3,851 |
| 愛知県 | 2,775 |
| 神奈川県 | 2,719 |
| 大阪府 | 2,376 |
| 北海道 | 2,339 |
| 千葉県 | 2,131 |
| 埼玉県 | 2,112 |
| 兵庫県 | 1,861 |
| 福岡県 | 1,840 |
| 茨城県 | 1,223 |
全47都道府県に配点あり(最少は福井県344点)。合計46,989点。
都道府県別 取引事例集計(上位10、種類=宅地(土地)・地域=住宅地限定)
| 都道府県 | 元取引件数合計(2022-2024) | 市区町村数 |
|---|---|---|
| 東京都 | 7,206 | 18 |
| 北海道 | 5,083 | 12 |
| 神奈川県 | 4,789 | 20 |
| 愛知県 | 4,705 | 18 |
| 千葉県 | 3,935 | 10 |
| 兵庫県 | 3,429 | 12 |
| 福岡県 | 3,309 | 15 |
| 大阪府 | 3,283 | 32 |
| 埼玉県 | 3,000 | 12 |
| 宮城県 | 1,775 | 5 |
取引事例のカバーは28都道府県(全47都道府県中)に限られる。19都道府県は該当データなし。公示地価が全国均一の47都道府県カバーであるのに対し、取引事例は都市部中心のカバーという非対称性がある。種類・地域を限定したことで、都心の商業地割合が高い市区町村(大阪市・京都市の都心区など)の件数は初版より大きく減っている。
公示地価×取引事例 価格比の分布(185市区町村)
| 統計量 | 値(取引事例÷公示地価) |
|---|---|
| 最小 | 0.42 |
| Q1(25%) | 0.77 |
| 中央値 | 約0.90 |
| Q3(75%) | 1.05 |
| 最大 | 1.56 |
| 平均 | 約0.90 |
| 標準偏差 | 0.22 |
出典: 国土交通省「国土数値情報 地価公示・都道府県地価調査」「不動産情報ライブラリ 取引価格情報」をALLFORCESが加工・集計、2026年8月時点
比率が特に低い例と高い例を市区町村単位で示す(個別物件情報は含まない、市区町村単位の集計値のみ):
| 市区町村コード | 該当市区町村(参考) | 比率 |
|---|---|---|
| 01102 | 札幌市北区 | 0.42 |
| 04101 | 仙台市青葉区 | 0.42 |
| 23105 | 名古屋市中村区 | 0.47 |
| 27141 | 堺市堺区 | 1.45 |
| 15108 | 新潟市西蒲区 | 1.54 |
| 33103 | 岡山市東区 | 1.56 |
初版で例示していた千葉市美浜区・大阪市中央区・京都市東山区は、種類=宅地(土地)・地域=住宅地に限ると大字別のサンプルが著しく少なく、いずれも今回の突合対象(185市区町村)から外れている(詳細は「訂正履歴」参照)。
解釈の注意
上記の比率は「訳あり物件が公示地価に対し何%か」を示すものではない。公示地価も取引事例も、標準的な物件(訳ありでない一般的な土地・住宅地)の集計値であり、本レポートは訳あり物件固有の価格帯には触れていない。
比率が1.0を下回る市区町村が過半数を占める背景には、基準時点のずれ(公示地価は2025年、取引事例は2022-2024年)と、地点選定バイアス(公示地価は住宅地に均等配置される調査点、取引事例は実際に売買が成立した物件に偏る)の両方が影響している可能性が高い。中央値0.90を「公示地価に一律0.9を掛ければ実勢になる」という換算式として使うことはできない。市区町村ごとのばらつき(最小0.42〜最大1.56)は平均的な乖離幅そのものより大きく、地域差を無視した一律換算は誤読を招く。
景品表示法上、統計値を用いる場合は「一般的な参考値」であることを明示し、個別物件の価格を保証・断定する表現は避ける必要がある。本レポートの数値はすべて市区町村単位の統計参考値であり、特定物件の価格判断には使用できない。宅地建物取引業法上も、本レポートは価格の鑑定・査定を行うものではなく、不動産の鑑定評価は不動産鑑定士の業務である。
通説との関係
不動産業界では「実勢価格は公示地価のおよそ1.1〜1.2倍」という目安が業界内で広く語られている。ただし編集部の調査では、この数値の一次資料(統計的な算出根拠を示す公的資料や調査報告)は確認できなかった。あわせて、市区町村別の実勢/公示地価比率をまとめた表が公的統計として存在しない点も、業界内での経験則として語られることが多いというにとどまる。
本レポートの実測値(185市区町村、中央値約0.90)は、この通説とは逆方向の結果になっている。差が生じうる理由はいくつか考えられる。第一に、通説が念頭に置くのは都市部・人気エリアでの取引実感である可能性があるのに対し、本集計は種類=宅地(土地)・地域=住宅地に限定し、大字あたり件数5件以上のサンプルのみを対象に185市区町村を横断的に集計している(前掲「データと方法」参照)。第二に、基準時点のずれ(公示地価は2025年時点、取引事例は2022〜2024年)が影響している可能性がある(前掲「解釈の注意」参照)。第三に、通説は個別の売買実感や特定エリアの傾向から語られることが多く、全国横断・市区町村単位の統計的な中央値とは、そもそも見ている対象の粒度が異なる。(出典: 実測値は国土交通省「国土数値情報 地価公示・都道府県地価調査」「不動産情報ライブラリ 取引価格情報」をALLFORCESが加工・集計したもの。通説側の一次資料は確認できていない)
したがって本レポートは「通説が誤りだ」と主張するものではない。対象種類・地域・時点・粒度という集計条件が異なれば結果も変わりうるという前提のもとで、「市区町村別の比率表は公的統計として存在しない」と言われる領域に、条件を明示した実測値を提示することが本レポートの主眼である。
まとめ
公示地価(46,989点)・取引事例(種類=宅地(土地)・地域=住宅地限定、集計11,520行・元取引59,234件のうち大字n≥5の44,274件)ともに国土交通省の公開データに基づき、市区町村単位で突合した。価格比の中央値は約0.90(取引事例が公示地価をやや下回る)だが、最小0.42〜最大1.56と市区町村ごとのばらつきが大きく、全国一律の実勢比率を語ることはできない。初版(8/13)は取引種類・用途地域の混在を含む集計で中央値1.13だったが、8/14に方法を是正し本記事の数値に差し替えている(詳細は「訂正履歴」参照)。基準時点のずれと地点選定バイアスを踏まえたうえで、地域ごとの傾向を読む参考値として利用してほしい。(出典: 国土交通省「国土数値情報 地価公示・都道府県地価調査」「不動産情報ライブラリ 取引価格情報」をALLFORCESが加工・集計、2026年8月時点)
こうした行政公開データとの突合分析は、不動産のデューデリジェンスを支援する 訳あり物件どうする? が継続的に行っている取り組みの一部である。
出典: 国土交通省「国土数値情報 地価公示・都道府県地価調査」「不動産情報ライブラリ 取引価格情報」(いずれも公共データ利用規約(PDL1.0)に基づく二次利用)。本レポートの加工(市区町村単位の集計・比率算出)は加工者ALLFORCESによるものであり、国が作成した資料ではない。