この記事は、AIエージェントへの委任設計に関する運用記録の1本である。自社のブログ記事生成基盤で、記事10本を書く工程を2系統のエージェントに任せたところ、両者が同じ10ファイルを別々の仕様で上書きし合う事故が起きた。原因と、気づけなかった理由、直し方をまとめる。
この記事で分かること
- 同じ10ファイルが2系統から上書きされた事故の原因
- 完了報告だけでは事故に気づけなかった理由
- 1ファイル1担当を徹底する具体的な指示の書き方
この記事で分からないこと(正直に書く)
- 同時書き込みそのものを機械的に防ぐ仕組み(排他制御)を導入したかどうか
- 他の担当範囲で同種の重複ディスパッチが起きていないかの継続確認
何が起きたか — 同じ10ファイルを2系統が別仕様で上書きした
自社のブログ記事生成基盤で、記事10本を書く工程を進めていたところ、2系統のエージェントが同じ10ファイルを別々の仕様で上書きし合う事故が起きた(出所: 自社の運用記録、確認日2026-09-06)。片方の系統が書いた本文を、もう片方の系統が別の構成で上から書き直す形になり、最終的にどちらの版が残るかはファイルへの書き込み順という偶然で決まっていた。
原因は担当表でなく、指示を出す側の重複ディスパッチだった
原因は、担当範囲を明示した表を用意せずに、同じ工程を2系統へ重ねて指示したことにある。指示を出す側の重複ディスパッチであって、個々のエージェントの実装ミスではない(出所: 自社の運用記録、確認日2026-09-06)。それぞれの系統は自分に割り当てられたつもりの仕事を正しくこなしており、渡された指示の範囲だけを見れば、どちらの動作にも誤りはなかった。
なぜ気づけなかったか — 完了報告は個別には「成功」として返る
事故に気づきにくいのは、各系統の完了報告がそれぞれ単体では正常に見えるためである。両系統とも「10本書き終えた」と報告してくる。どちらの報告文にも嘘はなく、実際にその系統は10本のファイルに書き込みを終えている。衝突が起きているかどうかは報告文を読むだけでは分からず、ファイルの中身を実際に開いて2系統の痕跡が混ざっていないかを照合して初めて見える。完了通知の「成功」を積み重ねて次に進むと、上書き合戦は素通りしてしまう。
どう直したか — 1ファイル1担当の明示と、成果物の実在確認
直した点は次の通りである。まず、担当ファイルを表で明示し、指定ファイル以外には触れないこと、他の担当が別ファイルを同時に書いていることをプロンプトに明記する。次に、委任先がさらに別のエージェントへ仕事を渡すことを禁じ、担当者本人が書くことを明記する(この点は姉妹記事「委任先が孫を起こして先に終了する事故」で詳しく扱う)。そして、完了の判定を報告文でなく、ls やgit statusによる成果物の実在確認に切り替えた。共通の前提となる事実は担当ごとにプロンプトへ埋め込まず、1つの資料にまとめて全員に同じものを読ませる。前提となるデータをまとめる際は、要約から作らず元データを全部展開してから作る。要約から作ると、実在する数値が「シートに無い数値は書くな」という制約に引っかかって書けなくなる逆転が起きた。
再発防止の手順
- 指示を出す前に、担当ファイルを1対1で割り当てた表を作り、重複がないか目視で確認する
- プロンプトに「指定ファイル以外には触れない」「他の担当が別ファイルを同時に書いている」と明記する
- 完了は報告文でなく、ls・git statusによる成果物の実在と件数で確認する
- 共通の前提は1つの恒久的な資料にまとめ、担当ごとにばらばらの記述を作らせない
- 前提となるデータは要約からでなく、元データを全部展開してから作る
この事故は、批判レビューの前提を扱う「前提シートを先に渡す」の考え方や、複数エージェントの判定を疑うタイミングを扱う「複数エージェントの批判が全滅判定を出すとき」とも、委任設計という点でつながっている。
AIエージェントへの委任設計・運用事故の防止について相談したい場合は、お問い合わせから編集部まで連絡してほしい。
よくある質問
Q1. 何が起きたのか
自社のブログ記事生成基盤で、記事10本を書く工程を任せた2系統のエージェントが、同じ10ファイルを別々の仕様で上書きし合った。
Q2. 原因は何だったのか
担当範囲を分けずに同じ工程を2系統へ重ねて指示した、指示を出す側の重複ディスパッチが原因だった。個々のエージェントの実装に誤りはなかった。
Q3. なぜ事故に気づけなかったのか
各系統の完了報告はそれぞれ単体では「10本書き終えた」と正常に返ってくる。ファイルの中身を実際に照合するまで、2系統の上書きが混ざっていることは報告文だけでは分からなかった。
Q4. 再発防止のために何を変えたか
担当ファイルを1対1で表にして重複を防ぎ、完了判定を報告文でなく成果物の実在確認に切り替え、共通の前提は1つの資料にまとめて全員に同じものを読ませるようにした。