この記事で分かること/分からないこと
- 分かること: RAG導入前のデータ棚卸しで確認すべき項目
- 分かること: 棚卸しをしても「答えが文書に無い質問」は一定数残るという前提の扱い方
- 分からないこと: 棚卸しにかかる作業量の目安(対象文書の量と形式に依存し一律には言えない)
- 分からないこと: 答えの無い質問への対応方法そのもの(本稿は棚卸しの範囲にとどめる)
棚卸しが必要な理由
RAGの検索・検証の仕組みは、質問への回答の根拠を、正規化した事実の集合(グラウンディング用のファクト)と照合することで成立している(出所: services/verifier/src/grounding-gate.ts、確認日2026-09-06)。この事実の集合をどこから作るかといえば、対象業務が持っている既存の文書である。棚卸しとは、この事実の集合の材料になる文書がどこにあり、どんな形式で、どれだけ更新されているかを洗い出す作業であり、材料の質と範囲が、その後に作る仕組みの質と範囲の上限を決める。
何を棚卸しするか
棚卸しで確認すべき項目は、文書の所在(誰がどこで管理しているか)、形式(PDF・Word・スプレッドシート・データベースのどれか)、更新頻度(いつ、誰が更新するか)、そして権限(誰が閲覧してよい情報か)の4つである。複数の部署にまたがって同じ対象について書かれた文書がある場合、内容が食い違っていないかも合わせて確認する必要がある。この段階で文書ごとの粒度や表記のばらつきに気づくことが多く、事実の集合を作る前の下準備として欠かせない。
答えが文書に無い質問は一定数残る
どれだけ丁寧に棚卸しをしても、実際に利用者から聞かれる質問のうち、既存文書のどこにも答えが書かれていない質問は一定数残ることになる。これは棚卸しの不備ではなく、文書というものが、あらかじめ想定した質問にしか答えを用意していないために起きる、構造上避けられない残余である。棚卸しの目的は、この残余をゼロにすることではなく、どこまでが文書で答えられ、どこからが答えられないかの境界を、事前に把握しておくことにある。境界が分からないまま運用を始めると、答えられない質問への対応を都度その場で決めることになる。
棚卸しの結果を材料の置き場所に反映する
棚卸しで洗い出した文書は、性質によって置き場所を分けておくと、その後の運用がしやすくなる。自社の構成では、投入原本や生成物のように容量が大きく実行時に読まないものと、実行時に毎回参照する確定配信用の索引とを、別の保管先に分けている(出所: docs/STORAGE_AND_BILLING.md、確認日2026-09-06)。棚卸しの段階で、対象の文書が「原本として保管するだけのもの」か「実行時に頻繁に参照するもの」かを分類しておくと、後から仕組みを組む際に迷いが少なくなる。
棚卸しの進め方
棚卸しは、まず対象業務に関わる部署から、既存の文書を種類ごとにリストアップしてもらうところから始める。次に、そのリストの中で更新頻度が高いもの、複数部署にまたがるもの、権限管理が必要なものにフラグを立てる。最後に、担当者が日常的に受けている質問のサンプルを集め、既存文書のどれで答えられるか、どれにも答えが無いかを突き合わせる。この突き合わせの結果、答えの無い質問がどの程度の割合で残るかが分かり、次の設計段階に進む材料になる。
よくある質問
Q1. データ棚卸しで確認すべき項目は何か
文書の所在、形式、更新頻度、権限の4つを確認する。複数部署にまたがる文書がある場合は内容の食い違いも確認する必要がある。
Q2. 棚卸しをすれば答えの無い質問は無くせるのか
無くせない。文書はあらかじめ想定した質問にしか答えを用意していないため、実際に聞かれる質問のうち文書に答えが無いものは構造上、一定数は残り続ける。棚卸しの目的は、この境界を事前に把握しておくことにある。
Q3. 棚卸しした文書はどう分類すればよいか
容量が大きく実行時には読まない原本や生成物と、実行時に毎回参照する索引とを分けて分類しておくとよい。自社ではこの2種類を別の保管先に分ける構成を取っている(確認日2026-09-06)。
Q4. 答えの無い質問がどれだけ残るかはどう確認するのか
担当者が日常的に受けている質問のサンプルを集め、既存文書のどれで答えられるかを突き合わせることで、答えの無い質問の割合が分かる。
棚卸しの前提として、どの業務から手を付けるべきかは最初に着手する業務の選び方の記事で扱っている。棚卸しを終えた文書をもとに最初の1件をどう作るかは小さく作る記事にまとめている。答えの無い質問への対応をどう検査に組み込むかは評価設計の記事を参照してほしい。RAG導入の進め方について相談したい方は、お問い合わせから編集部までご連絡いただきたい。
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