この記事で分かること/分からないこと
- 分かること: 「有界ドメイン」という考え方と、最初に着手する業務をそこから選ぶ理由
- 分かること: 自社の実行時0LLM構成が、有界ドメインを前提にしている理由
- 分からないこと: 有界でない業務にRAGを入れた場合の具体的な失敗率(自社では検証していない)
- 分からないこと: 業種ごとの「有界/非有界」の一律の境界線(業務ごとに個別判断が必要)
最初の1件で何を確かめるべきか
RAG導入を検討する際、最初に手を付ける業務を何にするかで、その後の判断材料の質が変わる。難しい業務から始めると、うまくいかなかった時に「RAGが向いていないのか、選んだ業務が悪かったのか」を切り分けられない。最初の1件は、うまくいくかを賭ける実験ではなく、何を測ればRAGの適性を判断できるかを学ぶための1件として選ぶ方がよい。その判断基準として使えるのが、対象業務が「有界」かどうかという軸である。
有界ドメインとは何か
有界ドメインとは、その業務で聞かれうる質問に対して、正しい答えの集合があらかじめ決まっている領域を指す。規程・料金表・仕様書・カタログのように、答えが文書の中に書かれていて、時間が経っても頻繁には変わらない業務がこれにあたる。逆に、個別の状況に応じて都度判断が変わる相談業務や、まだ結論の出ていない案件についての意思決定支援は、答えの集合そのものが定まっていない非有界に近い業務である。有界かどうかは業種で決まるのではなく、対象業務の質問と回答の構造で決まる。
自社の実行時0LLM構成が有界ドメインを前提にしている理由
自社では、有界ドメインの107テナント・約9,933件のデータを対象に検証を行い、hit率99.7%、hit率の合格基準91%を下回ったテナントは0件という結果を得ている(出所: services/verifier/out/ucaro-verification.json、確認日2026-09-06)。この構成が成立しているのは、実行時にLLMを呼ばず、事前に検証済みの索引だけを参照して確定的に配信しているためである(出所: docs/STORAGE_AND_BILLING.md、確認日2026-09-06)。索引だけで答えられるのは、答えの集合を事前に確定できる有界ドメインだからであり、都度状況が変わる非有界な業務に、同じ構成をそのまま持ち込むことはできない。
非有界な業務に同じ構成を持ち込むとどうなるか
非有界な業務では、質問のたびに新しい前提や個別事情が持ち込まれるため、事前に用意した索引だけでは答えられない質問が、一定数は避けられずに発生する。この場合、実行時にLLMを介さない確定配信の構成は使えず、都度LLMが生成に関与する構成に戻ることになる。そうなると、公開前検査で確認できるのは「用意した質問パターンに対する応答」までであり、本番で聞かれる未知の質問への対応は保証の外に出る。有界かどうかを最初に見極めずに業務を選ぶと、この境界を後から発見することになる。
最初に着手する業務を選ぶ際の確認事項
最初の対象を選ぶ際は、次を確認するとよい。第一に、その業務で聞かれる質問の答えが、既存の文書の中に書かれているか。第二に、その答えが短期間で頻繁に変わらないか。第三に、答えが複数の文書にまたがる場合、その突合を誰が確認するか。これらに答えられない業務は非有界寄りであり、最初の1件としては難易度が高い。有界寄りの業務から始めれば、RAGの構成そのものの適性を、業務の複雑さと切り離して確認できる。
よくある質問
Q1. 有界ドメインとはどういう業務か
聞かれうる質問に対する正しい答えの集合が、あらかじめ文書の中に決まっている業務を指す。規程・料金表・仕様書のように、答えが頻繁には変わらない業務が該当する。
Q2. 最初に有界な業務を選ぶべき理由は何か
有界な業務では答えの集合が確定しているため、実行時にLLMを呼ばず索引だけで確定的に配信する構成が成立する。自社では有界ドメインの107テナントでhit率99.7%という結果を確認している(確認日2026-09-06)。非有界な業務では同じ構成が使えず、RAGの適性そのものを評価しにくい。
Q3. 業務が有界かどうかはどう判断すればよいか
聞かれる質問の答えが既存文書に書かれているか、その答えが短期間で頻繁に変わらないか、複数文書にまたがる場合に突合を誰が確認するかを確認する。これらに答えられない業務は非有界寄りである。
Q4. 非有界な業務にRAGを入れると何が起きるか
事前に用意した索引だけでは答えられない質問が、一定数は避けられずに発生し、実行時にLLMが生成に関与する構成に戻ることになる。公開前検査で確認できる範囲も、用意した質問パターンまでにとどまる。
最初に選んだ業務の現状をどう実測するかは導入前に自社の現状を実測する記事で扱っている。選んだ業務の文書がどこまで揃っているかの確認はデータの棚卸しの記事にまとめている。hit率や幻覚率をどれだけの件数で確認すれば主張できるかは標本設計の記事を参照してほしい。RAG導入の進め方について相談したい方は、お問い合わせから編集部までご連絡いただきたい。
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